2日半に亘り行われたNegotiationセッション。最後の山場は、とある政情不安定な途上国に於ける巨大投資案件に絡む、6人の異なる利害関係者によるディール。ディールを組成した近隣国の投資家やら政治家、利権者から環境保護団体といった面々。役割ごとのシナリオが前日に配布されるのだが、ディールを構成する5項目の論点、及び、そのそれぞれに対し3つから4つの選択肢が与えられている。各Partyは、ミニマム獲得しなければならないポイントが設定され、各項目の選択肢毎にポイントがあるため、合計ポイントを頭の中で計算しながら、『Aは、A1(15点)をA2(7点)にする代わり、Dは、D4(3点)をD2(40点)に変えてくれ。』といった交渉をすることになる。合計ポイントが高ければ高いほどよいので、各Partyのエゴとディールを成功させるために必要となる譲歩のハザマで頭を悩ませることになる。当然、互いのスクリプトはコンフィデンシャルのため、各Partyのインタレストがなんなのかは交渉の過程で探りながら解明していかなければならない。
で、僕が授かったミッションが、このディールを成立させない、というもの。スクリプトを読めは、読むほど、どんな条件であれディールを成立させることが僕以外の全てに共通するインタレストのような条件下での厳しいタスク。ディール不成立となれば破格のボーナスポイントが得られるが、最悪ディール成立となった場合でもミニマム獲得しなければならない点数もある。交渉の過程は、最低限の点数を獲得できるBATNAを睨みながら、最終局面ぎりぎりまでディール不成立を目指して行動しなければならない。何しろ、6名の内、5名の合意を持ってディールは成立するので、僕はなんとしても誰か一人の反対票を最後の投票時点で獲得しなければならない。 僕が取った行動は、端的に言えばケオスの醸成。①時間稼ぎ、②信頼の破壊、③情報の断絶によって兎に角、理性的な議論をさせない様に努めた。ここで最も重要になるのがプロセスのコントロール。交渉に於いて最も重要なスキルの一つが、プロセスの管理。プロセスを管理するだけで、思いのままに操ることが出来るとさえ言われる。例えば、交渉の1時間半をどのように使うか、誰が議長を務めるのか、といったことから全てがそれに含まれる。僕の取った行動は勿論、このプロセスを管理させないこと。言い換えると、延々と行き先の無い議論を如何に続けさせること。只でさえ、コンペティティブで、コンセンサスを取ることが難しい集団なので、ちょっとしたトリガーをひけば、訳の無い仕事だと僕は考えていた。そして、実際に、それを実行。結果として、意図せずしてプロセスを完全にコントロール下に収めることが出来た。 何をやったかというと、まず、交渉の一等最初にプロジェクトを遂行したい投資家が、『ところでみんなこのプロジェクトはやりたいんだよね。その為に高い点数を取るというよりはミニマムの点数で全員がパスすればいいよね?』という基本的な問いに対し、僕以外の全員がさっさと賛成の表を投じた。 まずい。。 すかさず、明確に、 『僕はちょっと違うスタンスかもしれない。経済全体を考えればGO、だけど、条件次第。条件交渉は、個別にやりたい。何故ならば、ぶっちゃけた話、僕は君達の事をまだ信用していない。信用できないメンバーの面前で自分のインタレストを宣言できない。個別会談させてくれ。因みに、全体最適のためにミニマムのポイントを取ればよいとみんな言っているけど、僕はそう思わない。Highest Pointを取りたいし、competitiveに行動する。』 このように宣言することで意図したことは、 1.基本的にはDealすることに賛成していると思わせること(=ハブにされない)。 2.個別会議の設定により時間稼ぎと不安感を仰ぐこと。 3.competitiveに行動する宣言することで他者の競争心を煽り議論を紛糾し易くすること。 そもそもグループのメンバーには、演技派や競争心で有名なクラスメートが複数含まれていた。当初メンバー表を見たときは頭を抱えたが、よくよく考えると、これは逆にラッキーだと考えるようになった。つまり演技派に対しそもそも信用度が低い人間も居たし、競争心が強ければ、少し競争を煽れば全体最適の発想は容易に消え去るだろう、と。ブラックボックス化させた個別議論により得た情報と、当人が全体会議で発言した内容に齟齬や不透明さがあれば、その人間に対する信用を壊すのは簡単。僕自身がcompetitiveに行くよ、と宣言した時点で、競争心の強い人間は既にminimumではなく少しでも高い点数を取るように行動を開始している。それはつまり、交渉を複雑化させ、議論に時間を要することになる。 全体での会議時間は、個別会議を5名全員と僕が取ったため、ほぼ取れず、漸く取れた頃には終了10分前。ここからが結構大変だった。何しろ、5分の6の投票で取引成立になるので、兎に角、揺らぎのある人間をゆすぶらなければならない。個別会談で引き出した情報を、その正確性に限らずぶちまけ、弱みを見せた人間に問い続ける。Tableに載せられた最終案の一つの項目にでも変更が加われば、その他の項目で誰かが飲めないと言い出す。どうしても譲れない項目を持つ人間も居るので、ここにindirectに引っ掛かるように利害関係者を揺さぶりつづける。時間ぎりぎりの切迫感、ストレスの中で、皆が非理性的に叫び始め、ここぞとばかりに僕も大声を張り上げてむちゃくちゃにする。 なんてことをやったお陰で、取引不成立。僕、一人、満点を取ってゲーム終了。 その時点でプロのコンサルタント(この人達がまた物凄いキャリアの本物のnegotiator達)が事情を説明。実は、僕が取引を不成立にすることで最大のポイントをゲットすることが明かされ、えぇぇ!!!!となる。面白かったのは、この時点で非難が集中したのが、僕ではなく、その僕の行動により反対票を投じた人間に対して集中したこと。興奮覚めやらずの状況のなか、彼に対して、『何で反対票?』と、執拗に食い下がる面々が、この交渉の全てを物語っている、とはコンサルタントの解釈。つまり、プロセスを皆のはっきりと意識しないレベルでコントロールすることによってのみで取引を破談に持ち込んだため、矛先が僕に向き得なかったというわけ。つまり、嘘もつかなければ、はっきりとした邪魔もしていないのに、何故か、取引が成立しなかった。騙されたような、でも何を騙されたのかが良く判らない。仕方が無いからこいつに味方したお前が悪い、という発想に皆がなったというわけ。 大教室に戻り結果を見ると、ディールを見事破壊したのは、僕だけだったようだ。よっしゃ。 自宅に帰り、今回の講義をしてくれたプロの交渉人達のWebを調べながら、真剣に”Negotiator"という職業を将来の選択肢として考え始めたことは、言うまでもない。 しかし、楽しかった!!
by tomoimd
| 2007-08-04 03:12
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